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2021年08月22日

エッセイ『仏壇と墓と私』

恩師より依頼があり、2021年8月22日発行の東アジア共同体研究所のメールマガジンに寄稿しました。
2週間に1度のお約束に変わり投稿。

『仏壇と墓と私』

 最近繋がった弁護士のO先生が「相続トラブルは旧盆前に解決した方がいいですよ」と言った。兄弟親戚が顔を合わせる機会だけにモメる機会でもあるという。
「兄弟でもお金が絡むと骨肉の争いですからね。資産家でなくとも多いですよ。沖縄の場合は仏壇を継ぐ長男に全財産を残すというのが多くて、それで揉めるんですよね」
 ははあ。確かにそういう話をよく耳にする。O先生によると、いくら遺言書で「すべての財産を長男に譲る」とあったとしても、遺留分といって相続人に法律で保障されている相続できる権利割合があるそうだ。もし、「すべて長男に」となっても、他の兄弟は遺留分を主張し、法律が定める範囲内の財産を受け取る事ができる。
「確かに仏壇を継いで、行事を取り仕切るのは大変ですから、仏壇を受け継ぐ人に全部の財産を残したいというのはわかりますけど、自分の死後に財産のことで子供達が争うというのは本末転倒ですからね。その辺をちゃんと考えて遺言書を作成することをオススメしています」
 兄弟親戚、気持ちよく顔を合わせ、ご先祖をお迎えするためにも旧盆前にトラブル解決をというのは納得である。なるほどねー!
 子供の頃、本家で長男嫁の伯母、親戚のT叔母さん、そして次男嫁の母が集まると必ず仏壇とお墓の話だった。最初は最近どうだったこうだったと近況報告をしているのだが、いつの間にか今年のお盆はどうするこうするの話にスライドし、そこから仏壇行事を取り仕切る嫁の大変さ、いずれ自分達も入ることになるお墓の維持管理について。果ては親戚や知人の仏壇、墓事情にまで到達する。私は横で従姉妹とテレビを見ながら、毎度毎度同じ話で飽きないのだろうかと思っていた。
「七夕でお墓掃除に行ったんだけど、台風でかねえ。囲いが壊れていてね」
「今度のウマチー行事だけど、用意するお土産は……」
 私も大人になって母から仏壇やお墓の事を相談される事が増えた。毎回やるべき事は決まっているので、相談という形をとった確認と次世代教育も兼ねているようだ。同時にナチュラルに仏壇と墓の話ができるようになった自分に驚きである。これが大人になったということか……子供の頃はちんぷんかんぷんだった話も理解できていますからね。
 私はウチナーンチュとしては不真面目で、かつ結婚もしていないのでほとんど行事に参加しない。放送関係の仕事は盆正月関係なかったりするので早々に戦力外認定されているのもある。それでも多少なりとも関わっているのは年老いた母を助けるためだ。
 ここまで書いてハッとした。「財産は仏壇を継ぐ長男に」という言葉に。実質仏壇を継いでいるのはその配偶者ではないの?
 仏壇行事はプライベートなものなので、他家の様子を知る由もないのだが、ウチに限って言えば毎日のお茶のお供えや、節目節目の行事を取り仕切るのは母だ。父はと言えば、七夕のお墓掃除に親戚への挨拶回りくらい。親戚のおもてなしは母をはじめとした女達(弟の配偶者と私)にかかっている。はっきりいってここの負担が大きい。父と弟はというと、仏間に座って気が向いたらお客さんの相手をしている。その呑気な様子をてんてこ舞いの台所からいつも苦々しい気持ちで見ているのだ。
 ちょっと。仏壇=財産はあなた達が相続することになってるんじゃないの? それに値する貢献をしなさいよ。そう……沖縄、いや沖縄というと分母が大きいか。我が家の男達の面目は女達の働きで保たれている。
 何かと沖縄の伝統がー! しきたりがー! と言う親戚のおばさんがいるのだが、沖縄の仏壇の歴史は割と最近。16世紀頃に王家が臨済寺内の王廟に位牌を安置し供養したことに始まるようだ。17世紀頃に首里や那覇の士族達にも位牌祭祀が定着し、18世紀から19世紀にかけて庶民にも広がった。
 琉球時代に政治は国王が。神事は聞得大君が担った。沖縄には女性が家族を守るといったウナイ神信仰があるから、拝み事を取り仕切るのは女の役目というのはあるところで納得する。が、折々に行われる行事で、表向き行事を取り仕切っているのは家長の男で、滞りなく進むよう裏で采配を振るっているのは女というのは、どうも琉球のそれとは違うように感じる。
 嫁として貢献しているにも関わらず、子を授かる事が出来なくて不妊治療で追い込まれるとか。授かった子が女で仏壇を継ぐ事が出来ないと親戚から養子をもらったとかいまだに聞こえてくる。御先祖様がいたから今の私がいるというのは理解できるのだが、仏壇を中心に考えるのが過ぎて人権を踏みにじられる女達がいた、いるという事をちゃんと認識しておかないといけない。これは私がいうまでもなく、私の先を歩いている女達がトートーメー問題として訴え続けてきた事だ。
 最近私が注目しているのは女性天皇が認められるか? 女性天皇が誕生したら沖縄の仏壇事情も変わるか……あれは大和の事情と我が道を行くか。気になるところである。

エッセイ『仏壇と墓と私』


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Posted by ぱな87 at 22:18│Comments(0)書き描き下記?
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