本のことなど 『月とアマリリス』

ぱな87

2025年02月15日 21:09

『月とアマリリス』
町田そのこ・著 小学館

抉られた。読んだ方も痛くて辛かったけれども、よくぞ書いてくれたと思った。
主人公の飯塚みちるは週刊誌の記者だったが、ある事件のレポートがきっかけで記者を辞め出身地に戻り、タウン誌のライターをやっている。
女と思って軽んじる取材相手に辟易しながらも、収入のためと我慢の毎日だ。
そんな中、かつての恋人で上司でもある堂本から、みちるの地元で起きた事件を取材して欲しいと連絡がある。
最初は断るも、自分に向き合うためにもと引き受けることになる。
この作品のテーマは二面性というところにあるのだろうか。
いじめる側、いじめられる側。
犯罪者、被害者。
搾取する側、搾取される側。
弱さ、強さ。
孤独、共感。
関心、無関心。
男、女。
どれもくっきり区別できるようで、できない。
誰しもその二つを内包している。
事件を追うみちるもまた全て正しい訳ではなく、時に間違いを犯し、傷つき傷つけ、答えに辿り着こうともがく。
みちるが向き合っている課題は、まさに日本が更新できていない価値観の闇だ。
事件が明らかになるにつれ、読者もざっくざくと抉られるが、その傷を見て欲しいという気持ちにもなる。
傷ついている人がいるんだとわかって欲しいとも思う。
そして見えるものだけを、自分の価値観で判断する怖さを知らなくてはとも思う。
最後まで目を逸らさずに読み切った者だけが、みちると一緒に成長できるような気がする。

#月とアマリリス #NetGalleyJP



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