2024年03月25日
『ロマンスの神様』 あいうえおSS「え」
【はじめに】
あいうえおSS「え」
あいうえおSSとは、物語の始まりが五十音順というものです。
私が鍛錬のためにやっていることです。
五十音順に始める。
ジャンルはSNSにアップできる内容で。
このルールでやってみます。
感想をいただけると喜びます。
「書くことブロブ・すぎすぎ屋」、エブリスタでも同じものをアップしています。
SSというにはちょっと長くなってしまいましたが、ご容赦ください。
***
『ロマンスの神様』
縁結びの神様が、もしいるのなら、それは男女のみに働くものなのかもしれない。
昼休み。誰もいないオフィスで、同僚のオカシノこと御徒町詩乃からもらった縁結びのお守りを眺めながら自作の弁当を広げた橘慎之助は思った。
「ここの神社、霊言あらたかだよ。だってまだ付き合ってない時にたまたま彼と一緒に初詣行って、あれよあれよと結婚だよ? 絶対効くって!」
効くって……湿布か軟膏か。と心の中で突っ込んだが、橘はその気持ちが嬉しかった。
「あーホモは今日もボッチで昼飯かあ」
背後から聞き慣れた声がした。振り向かなくてもわかる。広告チームのチーフ重田だ。
「重田さん……」
一緒に食事に出ていたメンバーの一人が嗜めた。それが重田にさらに煽る機会を与える。
「何? 俺、何か間違ったこと言った? こいつがホモなのは事実。女みたいにちまちま作った弁当を一人で食べてるのも事実。あ、もしかして突っ込まれるほうだから女みたいなのか。ははは」
橘は「お前もゲイだろ」と叫びたいのを我慢して食事を続ける。
重田とはゲイ友に連れて行かれた健全なゲイバーで出会った。お互い驚いたが、それがきっかけで情報交換する仲になった。
ーそこまでは上手くいってたんだ。
しかし、「友情」を育んでいたのは橘だけだったようだ。ある日、重田から誘われたが、どうしても恋愛感情を持てず丁重に断った。それが彼のプライドを著しく傷つけたらしい。
「重田さん、それってパワハラ、セクハラですよ」
振り向くと宮村匠とオカシノがいた。企画のエースと、お調子者のオカシノ。珍しい組み合わせだ。なんて思ってる場合じゃない。
「なんだ宮村。上司に意見か」
「完全にコンプラ引っかかってます。橘がゲイだとして、仕事や人間性に何か問題がありますか? むしろ橘の企画、クライアントにめちゃくちゃ評価されましたよね。ウチの部署が社長賞もらったの、橘のおかげですよね。気づかいもできて、橘と組むとスムーズですよね」
宮村がそう思っていたとは。評価されたこと、抗議してくれたことに張り詰めていた心が緩む。
ーやばい。このままだと泣く。
密かに憧れている宮村の前でホモだなんだと言われるのは何より辛かった。それがこんな風に庇ってくれるとは……思いは伝えられずとも、好きな人が誠実な人間であることに安堵する。
赤くなったり青くなったりしている重田をよそに、宮村は橘の前に来たかと思ったらやにわに跪いた。
「な……何?」
宮村は戸惑う橘の左手を取ると、薬指に指輪を通した。
「結婚を前提にお付き合いしてください」
「は……?」
その場にいた全員が固まった。いや、一人を除いて。
「きゃー!」
オカシノの黄色い悲鳴に我に返る。
「正気か?」
「正気。お前の誠実でいじらしいところ好きになって。御徒町さんに相談してた。ほんとはこんな感じで申し込むつもりなかったんだけど」
真っ直ぐ橘を見つめる宮村の目に嘘はない。
急展開を見守っていた同僚達から拍手が起きた。どうやら縁結びの神様は橘のことも見てくれていたらしい。重田は面白くなさそうに自席でパソコンと向き合っていた。いつか重田のことも神様が見てくれるようにと思いつつ、宮村の手を取った。
了
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あいうえおSS「え」
あいうえおSSとは、物語の始まりが五十音順というものです。
私が鍛錬のためにやっていることです。
五十音順に始める。
ジャンルはSNSにアップできる内容で。
このルールでやってみます。
感想をいただけると喜びます。
「書くことブロブ・すぎすぎ屋」、エブリスタでも同じものをアップしています。
SSというにはちょっと長くなってしまいましたが、ご容赦ください。
***
『ロマンスの神様』
縁結びの神様が、もしいるのなら、それは男女のみに働くものなのかもしれない。
昼休み。誰もいないオフィスで、同僚のオカシノこと御徒町詩乃からもらった縁結びのお守りを眺めながら自作の弁当を広げた橘慎之助は思った。
「ここの神社、霊言あらたかだよ。だってまだ付き合ってない時にたまたま彼と一緒に初詣行って、あれよあれよと結婚だよ? 絶対効くって!」
効くって……湿布か軟膏か。と心の中で突っ込んだが、橘はその気持ちが嬉しかった。
「あーホモは今日もボッチで昼飯かあ」
背後から聞き慣れた声がした。振り向かなくてもわかる。広告チームのチーフ重田だ。
「重田さん……」
一緒に食事に出ていたメンバーの一人が嗜めた。それが重田にさらに煽る機会を与える。
「何? 俺、何か間違ったこと言った? こいつがホモなのは事実。女みたいにちまちま作った弁当を一人で食べてるのも事実。あ、もしかして突っ込まれるほうだから女みたいなのか。ははは」
橘は「お前もゲイだろ」と叫びたいのを我慢して食事を続ける。
重田とはゲイ友に連れて行かれた健全なゲイバーで出会った。お互い驚いたが、それがきっかけで情報交換する仲になった。
ーそこまでは上手くいってたんだ。
しかし、「友情」を育んでいたのは橘だけだったようだ。ある日、重田から誘われたが、どうしても恋愛感情を持てず丁重に断った。それが彼のプライドを著しく傷つけたらしい。
「重田さん、それってパワハラ、セクハラですよ」
振り向くと宮村匠とオカシノがいた。企画のエースと、お調子者のオカシノ。珍しい組み合わせだ。なんて思ってる場合じゃない。
「なんだ宮村。上司に意見か」
「完全にコンプラ引っかかってます。橘がゲイだとして、仕事や人間性に何か問題がありますか? むしろ橘の企画、クライアントにめちゃくちゃ評価されましたよね。ウチの部署が社長賞もらったの、橘のおかげですよね。気づかいもできて、橘と組むとスムーズですよね」
宮村がそう思っていたとは。評価されたこと、抗議してくれたことに張り詰めていた心が緩む。
ーやばい。このままだと泣く。
密かに憧れている宮村の前でホモだなんだと言われるのは何より辛かった。それがこんな風に庇ってくれるとは……思いは伝えられずとも、好きな人が誠実な人間であることに安堵する。
赤くなったり青くなったりしている重田をよそに、宮村は橘の前に来たかと思ったらやにわに跪いた。
「な……何?」
宮村は戸惑う橘の左手を取ると、薬指に指輪を通した。
「結婚を前提にお付き合いしてください」
「は……?」
その場にいた全員が固まった。いや、一人を除いて。
「きゃー!」
オカシノの黄色い悲鳴に我に返る。
「正気か?」
「正気。お前の誠実でいじらしいところ好きになって。御徒町さんに相談してた。ほんとはこんな感じで申し込むつもりなかったんだけど」
真っ直ぐ橘を見つめる宮村の目に嘘はない。
急展開を見守っていた同僚達から拍手が起きた。どうやら縁結びの神様は橘のことも見てくれていたらしい。重田は面白くなさそうに自席でパソコンと向き合っていた。いつか重田のことも神様が見てくれるようにと思いつつ、宮村の手を取った。
了
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Posted by ぱな87 at 00:21│Comments(0)
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